「気の利いた言葉」に気をつける

さらにRoy Peter Clark博士によれば、「たとえシリアスな記事であっても、言葉をうまく使うことを忘れないように」として、具体的には「ニュース記事には滅多に出てこないような一般的な言葉を選ぶとよい」というヒントが示されています。これはけっこう日本語にはないセンスですから、頭の片隅に入れておくといいでしょう。

一般に、英語では日本語の文章よりもはるかに繰り返しを嫌います。同じ単語の繰り返しは、特殊な効果を狙った場合以外はできるだけ避ける普通です。ですから、人物名は初出以降はheやsheのような代名詞に置き換えて繰り返しを避けますし、それさえも単調になる場合には、「the man」、「this gentleman」、「the walker」、「little lady」、「tall guy」など、人物の属性を使ってその人を表し、なるべく同じ単語を繰り返しません(もちろん特殊な必要性がある場合は別です)。
ここで注意しなければならないのは、これらの人物を表す単語は、その属性を読者に伝えたいという目的で使われているのでは決してないということです。そういう目的を兼ねている場合もありますが、基本的には、「同じ単語を繰り返さない」という強い文章作法の要請にしたがったものです。ですから、たとえばあるファンタジーにみられるように、主人公の名前である「Violet」を「the Fairy」「little Fairy」などと言い替えた部分をすべて正直に「その妖精」「小さな妖精」などと訳していく必要はありません。主人公が妖精であることは読者にとっては十分にわかっていることですから、作者がここで「妖精」という単語を選択したのは、単純にVioletという単語が多出するのを避けるためなのです。ですから、翻訳文では、そういった英語特有の特性を無視して、「バイオレット」としてやってかまわないのです。

こんなふうに、英語で「言葉をうまく使う」というのは、結局は言い替えの問題であることが多いわけです。堅い文章を書くときには内容の正確性を期するために同じ単語を何度も繰り返すことが多いのですが(特に契約書や特許関連文書など)、それでもやはり、「シリアスな文章でも言葉をうまく使いましょう」とアドバイスされるわけです。

そして、言い替えを行う場合、お定まりの言葉を使うと記事が退屈になります。ニュース記事で登場人物の言い替えに「犠牲者」や「被害者」のような言葉ばかり使っていると、どの記事も同じに見えてきます。だから、「ニュース記事には滅多に出てこないような一般的な言葉を選ぶとよい」というアドバイスになるわけです。具体的には「歩行者」「高校生」「サッカー選手」などを指すのでしょう。

翻訳者は、こういった言い替えに惑わされないようにしなければなりません。言い替えのための言い替えである場合がほとんどなのですから、下手に忠実に従うと文章の流れをどんどん損なってしまいます。同じ単語の重複は日本語でも見苦しいものではあるのですが、日本語の場合、それは言い替えではなく省略で対応します。そういった言語の特性を理解するヒントが、こんなところからも得られるのです。 さらに続きを読む…→  「気の利いた言葉」に気をつける

主語と述語に着目する

引き続き、Roy Peter Clark博士の”Fifty Writing Tools“をヒントにして話を進めましょう。博士は、動詞をできるだけ強い形、すなわち能動態で用いることを進めています。受動態は、どうしても弱い感覚を読者に与えるというわけです。そして、副詞には注意するようにと警告を発しています。動詞を強調するつもりで使った副詞句は、かえって動詞の力を弱めてしまうという指摘です。単純に「花が咲いた」と書く方が、「花が美しく咲いた」と書くよりも強く読者に訴えるというわけです。
これは、日本語を書く際にも当てはまることのような気がします。ですから、訳文を工夫するときにも覚えていて損のないコツなのですが、それはまた別の話。これを英文解釈の際に応用することをここでは考えましょう。

この「コツ」は、英語の発想をよく反映したものだと考えられます。つまり、英語では、日本語以上に「主語-述語」の骨格が重視される傾向にあるのです。「誰が(何が)、どうした」ということがひとつの文の中心であり、主語、述語の省略は基本的に考えられません。そして、それをできるだけ明確に表現することが、読みやすい文につながるわけです。

ですから、英文を読むときには修飾節にとらわれず、まず主語と述語を探す努力をすることです。それが英語の発想だからです。これは、意識しなければできません。というのは、日本語の発想はそうではないからです。
日本語は、少なくとも日本人の思考回路に対しては、「端から読めばわかる」という構造になっています。主語がどれとか述語がどれとか、一文の中で問題にしなくても読めるのが日本語です。ですから私たちは、ともすると、端の方から順番に文章を解釈していこうとします。これが妨げになってしまうことが多いのです。

もちろん、英語圏の人々も、文章全体を見なければ骨格がわからないということでは、意味の把握に不便を感じるでしょう。だからこそ、前回のポイント、「主語と述語を文頭に出す」というのがわかりやすい構文のコツということになるわけです。けれど、現実にお目にかかる英文は、そんなわかりやすい構文ばかりではありません。

そんなときでも、「英文解釈は主語と述語の把握がポイントだ」ということを忘れず、真っ先に主語と述語を探すべきです。その際に、より弱い部分である副詞や形容詞に目を奪われてはならないのです。 さらに続きを読む…→  主語と述語に着目する

主語と述語の見つけ方

英文を解釈するひとつの有効な方法は、その文章の書き手が、どのような戦略で文章を組み立てようとしているのかを知ることでしょう。そういう意味で参考になるのは、たとえば、Roy Peter Clark博士の”Fifty Writing Tools“でしょう。Clark博士はジャーナリストが文章を書くときに使うべきヒントを「50の道具」にまとめて昨年秋に出版されました。このようなwritingのコツは、多くの英語の書き手が心得ているものです。これを知ることは、英文にあらわれた特徴を理解するのに役立つというわけです。

たとえば、その50のコツの第一にあげられているのは、「Begin sentences with subjects and verbs. Make meaning early, then let weaker elements branch to the right.」という鉄則です。わかりやすい文章を書くためには、一文の冒頭に主語と動詞を集め、文が何を表現しているのかを明らかにします。その上で、修飾節を後ろにどんどんぶら下げていくわけです。

このようなコツをわざわざ書かねばならないということは、つまりはすべての英語の書き手がこういった戦略をとっているわけではないということなのですが、それでも、多くの書き手、特に書籍や論文、雑誌記事などを書くようなプロフェッショナルな書き手の多くは、それを意識していると考えていいでしょう。

そこで、英文和訳にあたって翻訳者は何を心得るべきかというと、

・主語と述語は一文の頭の方を探せ。

ということになります。ひとつの文の中には複数の節が存在し、その中にはさまざまな体言や用言が混在します。そこから文の骨格ともいうべき主語と述語を探し出すことは、英文を解釈する上で基本中の基本です。そして、それらを真っ先に探すべき場所は、文の冒頭付近になるわけなのです。

英語の作文術を心得ておくことは、それを利用して書かれた文章を理解する上で、こんなふうに役立つのです。 さらに続きを読む…→  主語と述語の見つけ方

読解力を高めるために

英文和訳には、2つの能力が要求されます。英語原文を正しく理解することと、理解した内容をわかりやすく日本語で表現することです。この2つは独立した能力なのですが、互いに重なりあう部分があります。それは、人間の思考が言語から構成されているからです。私たち日本人は、英語の文章を読んだとき、「何が書いてあった?」と聞かれたら、書かれていた内容をとっさに日本語で解釈します。つまり、原文は日本語で理解され、その理解がそのまま翻訳となる場合もあるわけです。

しかし、よりクォリティの高い翻訳をおこなおうというのであれば、英文の理解と日本語の表現力は、別々に修行すべきでしょう。そして、この2つの修行は、どちらも非常に単純に実行することができます。習うより慣れろ、大量の英文を毎日読み込むことを続ければ、英文の理解力はどんどん高まっていきます。どんなことでも毎日のように書く習慣が身につけば、日本語の表現力は豊かになっていきます。読む力は読むことで、書く力は書くことで、身につけていくのが本当でしょう。

けれど、そういう修行に加えて、ちょっとしたヒントがあると、「ああ、なるほど」と理解が深まるものです。このセクションでは、英文を「読む」ことに関するそんなヒントを書き綴っていこうと思います。 さらに続きを読む…→  読解力を高めるために