私はもともと編集屋としてパソコンを使い始めた。だから長いこと、もっとも重要なソフトはDTP用のレイアウトソフトだった。PageMakerに始まり、QuarkXpress、Indesignなんかを使った。いずれも直感的に美しいドキュメントができる優れものだった。それぞれにちょっとずつ癖があって自由自在とはなかなかいかなかったけれど、ずいぶんと手に馴染んだ道具たちだった。

そういう過去があるから、どこまでいってもワープロソフトには馴染めない。文書作成とレイアウトに関する考え方がまったく違う。はっきりいってワープロソフトは野暮ったい。思ったとおりに組めないし、環境がちょっと変わるだけでレイアウトは崩れるし、データはやたらと重くなる。そうはいいながら世間標準はMS Word(Ubuntu環境ではほぼOpenOfficeのWriterで代用)。おまけに悪いことにLinux界のDTP用レイアウトソフトであるScribusは日本語対応がまだまだで実用には難がある(日本語テキストさえ使わなければ十分実用的だけれど)。ということで、文句を垂れながらOpenOfficeのWriterで文書を作成するのがUbuntuに乗り換えて以後3年半の私だった。

それで大きな不自由を感じなかったのは、私の仕事が編集から翻訳へ大きくシフトしたからだ。いまでもまれに本をつくることはあるけれど、プロフェッショナルな仕事としてオフセットに回すようなデータではないから、OpenOfficeで適当につくってPDFで入稿という格好。かつてのレイアウトソフトを使ったレイアウトのコツなんてだいぶ忘れてしまったし、たぶん最近のIndesignの機能なんかにも遅れをとっているだろう。時代に取り残されてしまっている。

というような愚痴は前フリで、先日、ふらふらあちこちをのぞいていて、「縦中横」という懐かしい言葉を目にした。こちらのブログだ。

この言葉、どういうところが発祥か知らないが、日本語DTPが始まった頃から一般に用いられていたようだ。90年代初頭にキャノンのDTP専用機を使ったとき、この言葉は既にメニューに存在した。たぶん、初期のPageMakerあたりの開発で、プログラマが悩んで考え出した言葉なのだろう。「たてちゅうよこ」と呼びならわしていたが、音読みと訓読みが入り混じっているので「たてなかよこ」の方が正しいような気もする。もともと読みまで考えてつくられた言葉ではないのだろう。

これは、縦書き文書の中に2桁の数字(まれに欧文や3桁の数字)が入るとき、通常の半角数字や欧文だと横向きにフォントが表示されるのを縦向きに起こしてやること。ちなみにパソコン以前の編集では、これは何ら特殊作業でもなく単純に文字盤(もしくは活字)の正しい向きなので、わざわざ「縦中横」なんて指示は行わなかった。まれに電算写植で横向きに出力されてきた場合は、赤ペンでクルッとひっくり返す指示をいれておけばよかったわけで、「こんな変な組み方をしてきた印刷屋が悪い」と罵ればそれですんだわけだ。

ところが、DTPの時代になって自分で組版をするようになると、これをいちいち指定してやらなければならなくなった。漢数字を使う方法や全角数字を並べる方法などもあって統一を失わないように読みやすい本をつくるのはけっこう難しい。面倒だなあと思いながら、一種の腕のみせどころでもあった。

それがDTPをしなくなり、たまにOpenOfficeでレイアウトをするようになっても縦組みのしっかりした本をつくることがなくなって、「縦中横」なんて言葉の存在すら忘れていた。というよりも、OpenOfficeのようなワープロではそもそもそういう小技は無理なんだろうと思って調べもしなかったわけだ。けれど、ブログ記事になっているということは普通にできるもののようだ。

そこで、Writerを開いて適当な縦組み文書をつくって調べてみた。何のことはない、縦中横にする数字を選択した状態で、「書式」の「文字」の「位置」のタブの「回転と倍率」で90度回転してやるだけの話。この際、レイアウトによっては文字幅を狭くしておけばいい。そういえば以前にこの技は使ったことがあったような気もする。すっかり忘れていた。

なお、元ネタのブログの方では、こうやった場合に左右がずれるのを半角スペースで調整するような方法が書いてある。これはこれで使えるバッドノウハウだとは思うのだが、たぶん、「書式」「段落」の「配置」タブの「文字の配置」を「下揃え」にするのが正しい方法だろう。これは、縦中横を使用した段落だけに指定すると全体のレイアウトがおかしくなる可能性があるから、最初から縦書きの標準書式を「下揃え」にしておくのがいいのかもしれない。

前フリのわりに、中身のない記事だったなあ、我ながら。